ばーやんの天狗東壁

デジカメ始末書の巻

2007年4月14日〜15日 八ヶ岳・天狗岳 東壁  文=木下

 4月14日。天狗東壁雪上訓練の日。
今年もまた苗間(伏せ込み)の日と重なり、早朝からの田圃仕事でヘロヘロになって集合場所へ。
同乗は夜勤明けでやっぱりヘロヘロの君ちゃんです。

 11時コスモタワー発。12時登山口駐車場着。
君ちゃんは昨年5月守門岳で不慮の靱帯損傷をして以来の大型ザック山行なので、「久しぶりだ〜!」と何回もオタケビをあげて感激しています。
「やっぱ君ちゃん、でかいザック似合うね」と素直に感想を言うと、「いや〜、大丈夫かな〜、あたしゃ心配だよ〜」と言いながらも、
「まだ入るから」と村山さんが持つはずだったホエーブスを何のためらいもなく、ザックに入れてくれました。
私、けして企んだのではありません…。

 12時20分発。重量ザック復活の君ちゃんと肝機能障害急ブレーキ常連さんの私、
ゆっくりペースで快調順調、途中落っこってた人参ジュースでさらにパワーアップし、しらびそ小屋へ。
小屋から双眼鏡で東壁を見ると…いるいる!壁の下部で訓練してるらしい4人!
新人の齋ごさん・花里さん、きっとしごかれてる、いや鍛えられてるんだろうな〜。

 それを見た私達は武者震いしてテン場へと急ぎ、動物に食われないようにテント内に食糧をきっちりしまい、
東壁取り付きまで向かいましたが…下ってくる4人と途中で出会ってしまいました。
見ると…新人二人、疲れ切って顔が死んでます。齋ごさん無口、花里さん転ける。
私達、けして訓練が嫌で小屋でのんびりしてたんじゃありません…。

 4月15日。満天星空。微風快晴あばら雲少し。6時35分取り付き発。
 メンバーは5人、沈着冷静なリーダー神津、真夜中の来訪者村山、東壁のど真ん中で○○○する健、
挑戦3回目にして登攀の夢叶う君ちゃん、毎度お騒がせの私です。

 私は一昨年、村山さんと田中新一さんの手厚いご指導を受けてこの東壁を登りましたが、
その時は落石がすごく、本来のルートを避けて左の小尾根に上がり、懸垂で降り、
前爪がかろうじて入るような氷雪超急斜面を急登・トラバースし、尾根に這い上がって山頂へという
“超バリエーションルート”でした。今日は果たしてどうでしょうか。

 少し登ると、雪面は踏み込んだ所からひび割れ、3センチ位の雪板の下は氷の層になっています。
「気持ちよくねえなあ」というリーダーの言葉に、とたんに雪崩の恐怖がよぎりました。
雪崩と落石に充分すぎるほど気を配りながら登り、もう少しで大岩に辿りつくという時に…それは起きました。

 真正面から私に向かって石(後で思うととっても小さかったような)が2コ落ちてきたのです。
私は焦り、無意識のうちに手をバタバタさせてそれを避けようとした瞬間、手にしていた神津さんのデジカメを放り投げてしまったのです!!
「あ〜…!」カメラはすごい勢いで滑り落ちていきます…。
それからはひたすら平身低頭・懺悔・懺悔…。「後で必ず捜します!」

 大岩の下でロープを出している時、「ん!?」神津さんと村山さんが同時に顔を上げて「今ズンっていった。なんだ?」。
先ほどのショックからまだ立ち直れない私には、な〜んにも聞こえませんでした。
音に敏感になれと教わりました。健君リードで君ちゃんスタンデイングアックスビレー。
私はビレーのロープもカメラみたいに投げちゃうだろうということで、危険なのでビレーはさせてもらえませんでした。
悔しい〜、今度はまかせてもらえるようにガンバる!

 最後の雪壁を2ピッチで頂上へ。稜線に出る手前の急壁は足場が悪く、ロープで繋がっているとはいえ、ちょっとビビリました。
9時40分東天狗山頂着。やった〜!何回も来てるけど、今日の山頂はひと味違う!
雪崩の危険があるので、カメラの捜索は中山峠経由です。

 そこでフィックスロープの練習。健君リード、君ちゃんビレー。それを伝って下りていった私はまた大ポカ!
終了点に着きフィックスに架けていたカラビナでセルフビレーをとろうとはずしたとたん、足が滑って転倒、止めてもらって助かりました。
「まずピッケルを刺す・セルフビレーをとる・フィックスのビナをはずす。小さなミスが重なって事故になる。頭で考えるんじゃなくて体で覚えるんだ」
…はい、油断してました…。あ〜、やる度、自分の不甲斐なさが身にしみます。
 「結局、おまえ達はものにならないって事だな」と村山さんにきっぱり言われて私達3人はシュンとなりましたが、
「やだほど繰り返してやれば身につくさ」というリーダーの言葉にちょっと元気を取り戻しました。

 そしてカメラ捜索の為、再び取り付きへ。見上げると、あ、光っているところが…!
必死こいて登っていき近づいてみると…それはあのデジカメでした。よかった〜!!
 皆さん、大変お騒がせしました。疲れているのにここまで付き合わせちゃってごめんなさい。
再び平身低頭・懺悔・懺悔…。

後日談。
 そのデジカメはなんの故障もなく元気です。「惜しいことしたな〜」と神津さんは悔しがっています。
「おたくのカメラはこんな目に遭っても壊れません。大変すぐれものですって手紙出してやれ」と村山さん。
「何かあったら大変だよね、人の物は借りないようにしよう」と君ちゃん。
「もう1回登るなんてさ〜、ばーやん、元気だな〜、ホントは元気なんじゃん」と健君。そりゃあ必死だったの!

あらためて言います、けして故意に放り投げたのではありません…。


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